市立釧路図書館のブログ

北海道釧路市幣舞町4-6にある市立釧路図書館のブログです。ウェブサイトはhttps://lib.city.kushiro.hokkaido.jp/からご覧いただけます。

斜陽

図書館から見る夕陽

先日、新聞でも紹介されましたが、市立釧路図書館のセールスポイントに眺望の良さがあります。丘の上に立つ図書館からは、港に沈む夕陽をパノラマで見下ろすことができます。どの階からも望むことができますし、晴れた日はいつでも見ることができますが、いつも思わず魅入ってしまう美しさです。

斜陽、落陽という言葉はあまり良いニュアンスで使われないですが、その際、この夕陽の美しさというのは忘れられてしまっているような・・・。

ところで、斜陽といえば来年は作家・太宰治の生誕100周年にあたるそうです。小説「斜陽」は、没落する貴族の姿を描いて、ベストセラーとなりました。貧しくてもなお、貴族としての優雅さを保ったまま亡くなる「お母さま」、奔放な生活を送った末に自死を選ぶ直治、主人公かず子の周りを様々な人々が落ちてゆきます。お腹に宿った子どもの存在を感じながら、旧来の慣習や世間の目と対峙することをかず子が強く決意することで、物語は閉じられます。

「斜陽」については、貴族社会を良く知る大作家・志賀直哉に、言葉遣いの不自然さを指摘され、太宰が逆上したエピソードが有名ですが、なかなかどうして素敵な描写が並びます。例えば冒頭。

――お母さまは、何事も無かったように、またひらりと一さじ、スウプをお口に流し込み、すましてお顔を横に向け、お勝手の窓の、満開の山桜に視線を送り、そうしてお顔を横に向けたまま、またひらりと一さじ、スウプを小さなお唇のあいだに滑り込ませた。ヒラリ、という形容は、お母さまの場合、決して誇張では無い。 ~「斜陽」太宰治

学校では、スプーンの扱いに「ひらり」という形容詞をあてることは確かに習わなかったように思います。ただ、貴族としての優雅さを身にまとう「お母さま」の所作を形容するに、何ともぴったりな言葉のセレクトかと思います。

小説としての優劣を語る知識は持ち合わせませんが、作品「斜陽」は落ちゆく太陽の寂しさ、せつなさだけではなく、美しさを随所に散りばめた点で、図書館の窓から見える夕陽と重なるなぁとぼんやり思います。

作家・太宰は誕生日と没日が同じことで知られます。その日6月19日は桜桃忌として、多くの愛好家がお墓を訪ねるとされます。来年、桜桃の実のつく頃、図書館でも展示を企画したいと思います。